流域水需給データマップ

   近年、メッシュ単位による自然的・人文社会的なさまざまなデータの整備が進展したことによって、GISを援用した流域単位での定量的な空間データ解析が行われるようになった。このページでは、日本の一級水系109流域(注1)を対象に、メッシュ単位で提供されている水需給に関連するさまざまなデータを流域ごとに集計し、流域水需給データマップとして公開している(注2)。

   指標として取り上げたのは、1980年代2000年代人口事業所数(従業者30人以上の製造業事業所数)、水田面積畑地面積であり、それらに基づいて流域特性の類型区分も試みた。まず人口密度、事業所密度、水田面積率、畑地面積率の4項目を総合的に勘案した流域の類型区分を試みた。各項目の平均と標準偏差を求め、どの項目が「平均+標準偏差/2」を上回っているかに基づいて、「○○発達型」と名付けた。具体的には、人口密度と事業所密度がいずれも上回っていれば「都市発達型」、事業所密度のみが上回っていれば「工業発達型」とした。また、水田面積率と畑地面積率の両方が上回っていれば「農業発達型」、いずれか1つのみが上回っていればそれぞれ「稲作発達型」、「畑作発達型」とした。そして、上回っている項目が1つもない流域のうち、4項目すべてが「平均-標準偏差/2~平均+標準偏差/2」の値を示すものを「平均型」、それ以外を「非発達型」とした。
   また、人口、事業所数、水田面積、畑地面積の4項目に関して、1980年代から2000年代にかけてどの項目が増加したかに着目した類型区分(流域特性変化)も行った。人口と事業所数の両方が増加していれば「都市化型」、どちらか一方のみが増加していればそれぞれ「人口増加型」、「工業化型」とした。同様に水田面積のみが増加してれば「水田増加型」、畑地面積のみならば「畑地増加型」とした。また、人口も事業所数も増加しており、なおかつ水田面積または畑地面積も増加している流域を「開発型」とした。一方で、4項目いずれも減少している流域を「減少型」とした。

   さらに、これらのデータを用いて、以下に示す方法で各流域の水道用水需要、工業用水需要、農業用水需要を試算した。そして、各流域の潜在的な総水需要や水需給比も算出した。各流域の水道用水需要は、流域人口に、人口1人当たり年間上水使用量(有効水量ベース)の値を乗ずることで試算した。工業用水需要は,従業者30人以上の製造業事業所数に、1事業所当たり淡水補給水量(用水使用量の総計から海水使用量と回収水使用量を引いた値)を乗ずることで試算した。農業用水需要は、水田と畑地それぞれについて単位面積当たりの用水使用量を、北海道から九州までの地方別に算出し、その値に各流域の水田面積,畑地面積を乗ずることで試算した。そして、水道用水需要、工業用水需要、農業用水需要の総計を総水需要として算出し、降水量や蒸発散量のデータも加味しながら、水資源賦存量に対する総水需要の比率を水需給比として算出した。

注1:長良川水系と木曽川水系は別の流域として扱った。本明川水系は流域面積が非常に小さいため対象外とした。
注2:沖縄県には一級水系がないので対象外とした。

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<使用データ一覧>

流域界
国土数値情報流域・非集水域メッシュ

人口
国勢調査地域メッシュ統計(1985年)
国勢調査地域メッシュ統計(2005年)

事業所数
事業所統計調査地域メッシュ統計(1986年)
事業所・企業統計調査地域メッシュ統計(2001年)

土地利用(水田面積,畑地面積)
国土数値情報土地利用3次メッシュ(1987年)
国土数値情報土地利用3次メッシュ(2006年)

降水量
国土数値情報気候値メッシュ(1987年)
国土数値情報平年値メッシュ(2010年)

その他
国土庁長官官房水資源部編『日本の水資源(平成4年版)』
国土交通省水管理・国土保全局水資源部編『日本の水資源(平成24年版)』
工業統計表「用地・用水編」(1986年)
工業統計表「用地・用水編」(2001年)

<付記>

本研究の流域データベースは、筑波大学大学院生命環境科学研究科の石坂 愛さんと金 延景さんに作成していただいた。本研究は、平成24~26年度日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)「水資源再編期における流域圏水需給システムの適正化(代表者:山下亜紀郎、課題番号:24720371)」、および東京大学空間情報科学研究センターの空間データ利用を伴う共同研究(No.444)の成果の一部である。

<参考文献>

山下亜紀郎・金 延景・石坂 愛(2015)「GISとメッシュデータを用いた日本の一級水系の流域特性分析」『人文地理学研究』35,1-14.

山下亜紀郎(2013)「水需給ポテンシャルの変化からみた日本の一級水系流域の地域的傾向」『GIS―理論と応用』21,107-113.

山下亜紀郎(2006)「日本の一級水系における流域特性とその地域的傾向」『東京大学空間情報科学研究センターディスカッションペーパー』79,1-6.

山下亜紀郎(2004)「日本の主要流域における土地利用特性とその地域差」『地理情報システム学会講演論文集』13,79-82.


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(GIS用shpファイルとデータベースのxlsxファイル)