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国際プロジェクトから世界を見る


 私は今までに、中国やネパールをフィールドとした国際プロジェクトにかかわってきました。外国を舞台に観測研究を実践していくには、国内以上に信頼できる研究集団を築き上げていく必要があります。いったん築き上げた枠組みを時代の動向を見ながら発展していくのも、これまた大変です。個人研究と異なり、非専門の方を納得させられるだけの必要性・重要性・緊急性、そして話題性が必要となるからです。しかし、そのためには個人の力量を超え(プロジェクトなのですから自明なのですが、、)、やや背伸びした研究提案・報告をしなければならなくなる場面にも遭遇します。実行に必要な資金獲得も不可欠で、いざ開始の段階となると参加機関の間での取り決め(MOU)締結が一苦労です。多くのプロジェクトリーダはここら辺をしっかりこなしつつ、自分の夢をかなえていくだけの信念をお持ちです。それに比べると自分は随分無邪気な若造時代を過ごしてきました。良くも悪くも、プロジェクトを最大限に活用(利用)し、メカニズム研究に慢心していく姿勢があったように思います。

 海外で観測するという事は、人様のお庭に気象測器を置かせていただいたり、貴重なデータを頂いたりする事を意味します。大気の運動は国境を跨いで連動していますから、複数国家の協力をとりつける必要が生まれます。大気観測では個人で測器を持ち込んでも、趣味の研究からなかなか超えられません。その点、ハンマー一つで地質を調べたり、昆虫採集に明け暮れる科学者の番組をみると、羨ましくなる事が多いですね。それでも、院生時代にヒマラヤに気温計や雨量計を持ち込んで設置作業やデータ回収と格闘した経験が、その後のフィールド活動における直感を養ったことは間違いはありません。一方で、現場で自分が思い描いていた科学的課題と、それを実施するためのロジスティックや人間関係に葛藤し、”参加することへの自分のメリットとは何か”を考えるようにもなりました。そのたびに”本当は何を知りたかったのか”とプロジェクトの原点に振り返る事が、今の論文執筆の強い原動力となっています。

 プロジェクト参加には醍醐味があります。それは現場での実践であり、苦労の経験です。そして、それを克服するための交流作りです。これらは、誰からも教わることのできない実務でした。ともすると大気科学は現場を忘れがちです。その意味で、チベット・ヒマラヤといった過酷な自然・政治環境で他人がまね出来ないような一仕事を実施できた事は人生の宝であり、そのような機会を与えてくれた処先生方に感謝するとともに、若い世代にも伝授していく責務があると感じます。しかし、時代はめまぐるしく変わるもの、最近はフィールドで大気科学を実践したい学部生が激減しています。同時に、諸外国でも自前の資金を調達して観測を実践するようになりました。時代は想像以上に変化しています。

 一方で、プロジェクトのサブパネルでサイエンスプランを考えたり意見の集約を行ったりする仕事が舞い込むようになりました。これまでこつこつと積み上げてきた個人研究の視点を諸外国の研究者が思いも余らず興味を持ってくれていることに驚き、今までの日本人的発想とは異なるやり方と視点に、新鮮かつ戸惑いを感じます。そして、いまさらの語学力の無さに痛感する日々。自分の培ってきたアジアン・フィールド型大気科学がどれだけ通用するものか、役立ててもらえるものなのか。外資系に再就職したつもりでチャレンジしていくしかありません。。

>  イタリア/Padua 2008.4.15−20