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海外調査・フィールドワークから考える


 ここでは、多くのプロジェクトに支えられて実施できた海外観測履歴を紹介させていただきます。プロジェクト代表者のお名前が略語で頻発しますがご容赦下さい。
 さて、私の最初の海外学術調査は、今でも忘れることのできない中国雲南省からスタートします。当時の指導教官であったYo教授率いる科研で連れて行ってもらったのですが、その後、長いお付き合いとなる隣国の歴史を脳裏に刻みつける第一歩となるとは思ってもいませんでした。自然と調和した農村で、車に温度計をくくりつけて都市気候の移動観測を行ったのが、自前の初海外観測。昼にはマーケットが開くので車の通行経路を変更しなければならず、ドライバーと筆談で会話したことが忘れられません。その後、北大のYa先生のもと、ネパール氷河調査隊に参加させていただき、高山地域での降水量観測を行います。Ya先生の大変厳しいご指導は、私のフィールドワークに対する姿勢の原点と成っております。その後、中国チベット域での学術研究に場を移し、Oh先生の科研費によるタングラ山脈での大気水循環研究のために1ヶ月のテント生活を送ります。殆どが自然のなかで放置状態の生活でした。場所を那曲に移し、Ya先生の科研費による近代気象観測が開始されます。このとき取得した統合データが、現在の私の仕事でもっとも重要な役割を果たしています。”取得したデータはとことんしゃぶりつく”癖が身につきました。同時に、名古屋大学のNa先生が開始ししたヒマラヤでの温暖化評価研究の一環として、クンブヒマラヤにAWSを設置し私自身の研究費にて10年以上いわたる山岳気象モニタリングを開始。その後Ko先生によるチベットでの観測強化とJICAによる観測拠点の面的展開および現業予報へのデータ活用へと、海外調査は個別研究から現業へのデータ活用へと進展し、その分私の仕事も直接の観測作業からプロジェクト進行のための観測統括作業へと、シフトしている状態です。中国もチベット高原研究所が設立され、あの頃フィールドを一緒に走り回った仲間を会合で再開するたびに、笑顔で迎えてくれます。。

 気象学者が野外で調査する場合、“観測”や“データ収集”といった用語を使用します。しかし、私の場合、泥臭い”フィールドワークとかエクスペディション”という用語が似合っています。何故か、隣で地面に穴を掘っていたり、氷河の氷を削っていたりする人が多く、私自身も山岳部出身とよく間違えられます。もともと自然地理が好きで、最初の頃は目で見て分かったつもりになり、勘違いを引きずることがありました。しかし、質の違うデータで同じ地域の同じ時間に見た現象と照らし合わせると、その勘違いが学術的な謎解きに変わるのです。


 近年の数値解析の進展は凄まじく、研究室にいると時として自分ができそうな研究に行きづまりを感じることがあります。そんなときに海外にでると、予期せぬ天候変化や特異な景観についつい目がいってしまい、“どうしてここでこのような天候が発生するのか”といった疑問がお土産となります。それが”まだまだやることがある”、という自信につながります。現場で観察した地勢や地元の人の自然認識は必ず天候の地域性と関係しています。一方で政治・経済状勢や時代の流れは海外学術研究の採択・推進そのものを大きく左右することがあり、昔のように好き勝手に調査に乗り込む時代ではなくなりました。しかし、発想に国境はありません。大気科学では、他分野のように現地で取得されたデータのみで学術論文をまとめることはまれです。しかし、現場経験があることはかなりの強みであり、やはり私の発想の原点はフィールドワークなのです。そして、体力と精神力を楽しみながら鍛えていくことが課題ですね。

海外調査により発想した研究素材や踏査記録の一部を、学術論文ではなく、記事として和文学術雑誌に掲載してきましたのでご覧下さい。