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『華人社会がわかる本』書評・紹介

 

 


『アジア遊学78号 中国都市の時空世界

勉誠出版,2005年8月20日刊,pp.190-192

ブックレポート 華人社会研究入門書の決定版

山下清海編
『華人社会がわかる本−中国から世界へ広がるネットワークの
歴史,社会,文化 』 
 (明石書店、二〇〇五年四月、本体二〇〇〇円+税)

評者 河 口 充 勇 氏
(同志社大学技術・企業・国際競争力研究センターCOE特別研究員) 

はじめに

 海外華人に関する文献は一九八〇年代以降に多く出版されており、今では大型書店の海外時事コーナーに足を運べば、華人や華僑の語を冠した専門書・一般書を多く目にすることができる。私が華人社会研究を志すようになった十数年前に比べ関連文献の量は大幅に増えている。とはいえ、入門書に限っていえば、過去十数年間にさほど大きな展開はなかったように見受けられる。たしかに日本語で書かれた華人社会関連の入門書はすでに多く出版されているが、残念ながら、そのほとんどが海外華人社会の多様な広がりを偏りなくフォローしたものではない。私自身、担当する講義の学生たちから華人社会研究の入門書を紹介するよう依頼されることがよくあるが、そのようなときに文句なしに紹介できる入門書がないことに悩まされてきた。そうした状況のなかで、本書『華人社会がわかる本−中国から世界へ広がるネットワークの歴史、社会、文化』はまさに待望の華人社会研究入門書決定版であり、分野・地域・時代を問わず幅広い関心に対応できる一冊となっている。本書の編者である山下清海氏(筑波大学大学院教授)は本書の「おわりに」で「一冊で、中国を離れて海外に移り住んだ華人の社会、歴史、経済、政治、文化などを知ることができ、しかも日本や世界各地の華人の生活がわかる、そんな贅沢な願望を抱いて作り始めた本である。それを実現するためには、多数の方々の協力を得る必要があった」と記している。本書の執筆者は三二名を数える。そのうえ、執筆者の経歴も多岐に渡っており、専門研究者だけでなく、ジャーナリストや日本国内の華人社会のキーパーソンも本書の執筆陣に名を連ねている。そのように贅沢≠ネ人集めは、長年にわたり世界各地(国内を含む)の中華街で精力的にフィールドワークを行なってこられた山下氏ならではものであると考えられる。

本書の構成

 本書は三つの章からなる。第一章「華人社会を知る」では、華人研究の基本的な考え方が概説されたあと、海外華人の歴史、経済、政治、言語、教育、宗教、社会組織、ネットワークに関する解説が行なわれている。つづく第二章「日本の華人社会」では、日本における華人の歴史が概説されたあと、日本国内の伝統的な中華街(横浜中華街・神戸南京町・長崎新地中華街)の歴史と現状が解説され、さらに「新華僑」と呼ばれる華人ニューカマーの近年の動向(池袋チャイナタウンと埼玉県川口市芝園団地)が報告されている。そして、第三章「世界の華人社会」では、海外華人の全体的傾向に関する概説のあと、世界各地(シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、カンボジア、韓国、パプアニューギニア、インド、ロシア、イギリス、フランス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル)の華人社会の現状が報告され、最後に中国上海に展開する海外華人の近年の動向が報告されている。

 本書の特色と意義

 本書の大きな特色は、先述のように、執筆者の経歴が多岐に渡っているということである。大きく分けると、本書の執筆者は三つのグループ―華人社会のキーパーソン、ジャーナリスト、専門研究者(華人系研究者を含む)―からなる。なかでも特筆に値するのは、日本国内の華人社会のキーパーソンたちが内側の視点≠ゥら華人社会を語っているということであり、それは既存の華人社会研究入門書においては見られなかったことである。日本国内の華人社会に関する第二章の執筆陣には、横浜の中華料理店や貿易会社の経営者にして横浜中華総会会長である曽徳深氏、長崎の著名な貿易商社「泰益号」の創業者を先祖にもつホテル経営者にして長崎福建会館理事長である陳東華氏、「長崎ちゃんぽん」の創始者を先祖にもつ中国料理店経営者にして長崎中華総会理事である陳優継氏、そして、自ら「新華僑」にして出版社経営者である段躍中氏など非常に興味深い経歴をもつ方々の名前が並んでいる。
 もうひとつの大きな特色は、フォローされる地域が極めて広範にわたっているということである(そのために多様な経歴をもつ執筆者が必要であったと考えられる)。日本でもよく知られる東南アジアや北米の華人社会はいうまでもなく、これまで一般的にはほとんど知られることのない韓国、インド、ロシア、南アフリカ、ブラジルの華人社会までフォローされている。華人社会は世界各地に存在しているが、現時点で我々が知り得る華人社会は多様な全体のなかのごく一部分にすぎない。本書が一つのきっかけとなって、海外華人世界の周縁部分への関心が喚起され、華人社会研究に新たな展開が生じることを期待したい。また、日本国内の華人社会についても、有名な三大中華街にとどまらず、門外漢にはまったく華人社会を連想できそうにない池袋や埼玉県川口市といった場所までフォローされている。なかでも川口市の公団住宅に関する報告は、従来の日本国内の華人社会研究ではほとんど注目されなかった比較的高い階層の華人ニューカマーの生活圏という興味深い領域を扱っており、今後における研究のさらなる発展可能性を大いに感じさせるものである。
 そのように様々な経歴をもつ多くの執筆者が様々な地域の華人社会のあり方を解説しており、そのため本書の情報量は非常に多い。とはいえ、本書は、単なる情報知識の羅列に終わっているわけではなく、華人社会を理解するに当たって必要不可欠なパースペクティブを読者にわかりやすく教示している。山下氏は、本書の「はじめに」のなかで、本書を通して華人のステレオタイプ的イメージ(「金儲けが上手で、何となく不気味な存在」)を払拭したいと強調しているが、この点は非常に重要である。読者は、本書を一読すれば、一言で華人社会といってもその中身は非常に多姿多彩であるという当たり前の事実を再認識させられるだろう。どんなエスニック・グループにもステレオタイプ的イメージは付きものであるが、華人というグループがもたれがちなイメージはことさら強力なものであるゆえ、華人社会研究を志そうとする者にとっては、そうした当たり前の再認識がやはり出発点において必要不可欠なのである。この点にこそ本書の最大の意義があると私は思う。


読売新聞(大阪本社) 2005年6月22日夕刊

『華人社会がわかる本』 山下清海編著

 中国人は世界各地に移住し,「海水至るところに華僑あり」といわれるほどだ。各地の華人社会の伝統的な特色だけでなく,新しい面,変化しつつある面も取り上げ,旧来のステレオタイプ的な「華僑」のイメージを払拭する。
 華人社会の歴史,経済,政治,言語,宗教などを概説。横浜,神戸,長崎新地の三大中華街を中心に歴史と現状を取り上げ,最後にシンガポール,アメリカ,ブラジル,イギリスなど各地の華人社会について興味深いトピックを中心にリポートしている。
 読売新聞夕刊に連載された「関西おもしろ文化考」掲載の「神戸中華街VS横浜中華街」も収録,華人関係の入門書として好適だ。
 (明石書店=(電)03・5818・1171,2000円=税抜き)


「横浜華僑通訊」 第377号
 
(横浜華僑総会,2005年6月1日)

<紹介記事>

(PDFファイル)
 


「東方」 292号 
 
(東方書店,2005年6月5日)

<Book にっぽんのほん>

 華人社会の歴史と現状を,研究者・ジャーナリスト・華人経営者など多彩な執筆陣が解説する。世界各地のチャイナタウンの詳細なレポートも交え,華人社会に関心を持つ人に最適の入門書。


「華僑報」 第1625号 
  
(発行:東京華僑総会,2005年5月25日)

<新刊> (PDFファイル)


「関西華僑報」 第396号
  
(発行:京都華僑総会・大阪華僑総会・神戸華僑総会,2005年5月25日)

<新刊紹介> (PDFファイル)

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