書 評
 

 「學燈」(丸善) 第98巻、第1号(2001年1月号) 

 <丸善ブックス>
山 下 清 海  著

チ ャ イ ナ タ ウ ン

-世界に広がる華人ネットワーク-

  
評者: 海野 弘 (評論家)

 

 <チャイナタウン!>というひびきは、なんとなく私たちを魅惑する。私はチャイナタウンフリークで、実際に歩くのも、それについて書いた本を読むのも大好きだ。

 チャイナタウンの魅力には二つの極がある。一つはその伝説・歴史の面である。もう一つは現実の活気にあふれる都市としての面である。私などは前者のおどろおどろしい、都市のアンダーワールドとしてのチャイナタウンを偏愛している。だがそれは一つの幻想であるから、時に、実像とあまりにかけ離れてしまうかもしれない。

 この本は現実のフィールドワークに基づいたバランスのよいチャイナタウン論になっていて、私などにはとても参考になった。この本を読む前に、私はサンフランシスコのバーバリ・コーストについて調べていた。19世紀末にできた地区で、売春、賭博がはびこった無法街である。その隣がチャイナタウンで、ここには阿片窟があり、バーバリ・コーストとチャイナタウンがくっついて、巨大な歓楽と悪徳の世界がくりひろげられていた。ところが、1906年に大地震があり、大火事となった。バーバリ・コーストとチャイナタウンも燃えたのであるが、白人の消防隊は、チャイナタウンを消火せず、燃えるにまかせた。という。アメリカにおけるチャイナタウンの哀しさが迫ってくる。

 そんなことを考えながら、この本を読みだした。サンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドン、パリなど自分が知っているチャイナタウンが次々とあらわれ、読むのが楽しかった。そして、もちろん、日本の、横浜、神戸、長崎のチャイナタウンについても興味深い。東京にチャイナタウンができなかったという指摘にはっとさせられる。このごろは、新宿歌舞伎町が東京のチャイナタウンかもしれない、と思ったりする。

 著者は、それぞれのチャイナタウンの共通性とちがいを要領よく説明し、都市についてのさまざまなとらえ方を刺激してくれる。チャイナタウンというのは、なんと都市的な想像力をかきたててくれるのだろうと、この本を読んであらためて思った。

 いろいろなエスニック・タウンはあるが、なぜチャイナタウンは飛び抜けて面白いのか。その謎はまだわからない。その謎をたどって、またチャイナタウンを歩いてみたい。この本に出ている、私のまだ知らない街を訪ねてみたい。

四六判 222頁 本体2,300円 丸善刊