書 評
 

 「地理」(古今書院) 第45巻、第12号(2000年12月号) 

 書 架

チ ャ イ ナ タ ウ ン

-世界に広がる華人ネットワーク-

山 下 清 海  著  

 四六判 208頁 本体2,300円 

丸善ブックス 2000年発行




評者: 東京学芸大学 椿真智子


 横浜・神戸・長崎の中華街は、今や定番の観光地であるが、世界中のチャイナタウンはどのような顔をもっているのだろうか。おいしい中華料理や豊富な食材、キッチュな中国雑貨にとどまらないチャイナタウンの真の魅力とは何か。本書は、われわれが何気なく感じているチャイナタウンの面白さを、長年のフィールドワークを積んだ地理学者の観点を通して興味深く解説してくれる。


 日本においては中華街ほど明瞭なエスニック・タウンはない。そこには、周辺地区と一線を画する独特な雰囲気が漂っている。そうした強烈な印象は、華人や華人社会のイメージをよりステレオタイプ化している。われわれの多くは、中華街の風景がそのまま本場中国や東南アジアにも広がっていると考えがちである。これに対して著者は、例えばチャイナタウンの景観シンボルとみなされる牌楼が建設されるのは、日本・欧米ともに比較的最近のことであると指摘する(例えば神戸南京町は1982年、長崎新地中華街は1986年、サンフランシスコは1970年)。その一方で、最も華人人口の多い東南アジアにおいては、現在牌楼があるチャイナタウンはマニラのみとのことである。すなわち牌楼建設は、チャイナタウンの観光地化を示すものであり、東南アジアのチャイナタウンでそれがみられないのは、現地社会と華人との微妙な関係の証なのである。「チャイナタウンを一目みれば、その国の華人がおかれた境遇が容易に理解できる」とは、チャイナタウンを知悉した著者ならではの言葉である。


 地理の巡検や実習においては、現地の何(どこ)を見ればその地域的特徴や地域性がみえてくるのかが常に問われるのだが、その答えをなかなか見出せないことも多い。チャイナタウンを通して社会や文化の多様性・共通性とその変化を考察する本書は、地理的な見方を実践するヒントを与えてくれる。


 本書の親切なところはほかにもある。横浜・神戸・長崎をはじめとして、東南アジア、北米、ヨーロッパ、オーストラリアの各チャイナタウンに関する解説にはそれぞれ地図や写真が付され、また巻末には、チャイナタウン関連のホームページリストが掲載されている。本書は、本物のチャイナタウンにアクセスする絶好の入門書ともいえるだろう。