日中地理学会議 会報 第42号 2000年11月5日

 

インターネットと新著『チャイナタウン』

 

山下清海(東洋大学国際地域学部)

 

 過日、ある講義で世界および日本のエスニックタウンを一つ選んで、それに関して解説することをレポートの課題とした。机の上に山積みされたレポートを読んでいるうちに、全く似通ったレポートを発見した。テーマは「神戸南京町」で、二つのレポートの内容、文章表現も、ほとんど同じであった。私はすぐにその出典がわかった。神戸南京町に関するホームページ(以下、HP)である。


 このように、インターネットから得られる情報は、いとも簡単にそっくりコピーできるので学生にとっては、大助かりである。最近、学生の行動を見ていると、レポート書きやゼミ発表の準備などの場合、まずインターネットの検索から始める。そして、インターネットで終わる。つまり、本や論文を読むという行動が極力省かれてしまう傾向が強まっている。インターネットで膨大な文献データベースが無料で使用できるようになったが、本を読むよりは、インターネットを見た方が気楽である。こうして学生は、ますます本を読まなくなり、また買わなくなってきたのである。


 例えば、私が開設しているチャイナタウンや華人社会に関するHP上の掲示板に、最近、「○○国の華人について知りたいので教えて下さい」といった類の学生からの書き込みがしばしばある。おそらくは、どこかの大学で出されたレポートの課題を、せっぱ詰まって、掲示板でSOSを求めたようだ。このような書き込みに対して、私は若干の基本的な参考文献を紹介することにしているが、おそらく投稿者が期待したのは、そのままコピーすれば、即レポートに使えそうな長い解説文だったのではないだろうか。


 このように、学生が図書館で本を探し、それを読んでレポートを書くという従来型のパターンは、確実に減少していっている。今後、レポートの課題に対しては、百科辞典のCD−ROMで関連事項の解説をコピーしたり、インターネットのどこかのHPから文章を持ってきたりして、レポートが作成されていくのではないだろうか。そのレポートには、文章だけでなく、写真、地図なども掲載され、見た目にはビジュアルでカラフルである。私は、レポート作成に関しては、データソースを明示することを厳しく指導してきたが、参考文献リストに書かれているのは、馬鹿正直にHPのアドレスばかりということも珍しくない。


 こういう状況だからこそ、本が売れず、ますます良書が世に出にくくなったと出版業界の嘆きが聞こえてくる。このような逆境の中で、私は去る8月末に『チャイナタウン−世界に広がる華人ネットワーク−』(丸善<丸善ブックス86>、\2300)という本を出した。本書の出版と同時に、インターネットで本書を紹介するために、専用のHPを丸善と共同で作成した。本書の中には、写真や地図を多数掲載したが、カラー写真を掲載するのは価格が高くなるため不可能であった。このため、HP上で海外のチャイナタウンや日本三大中華街をカラー写真で見られるようにした。また、チャイナタウンの理解度を示すために(一部、遊び心で)、クイズも作成した。出版社側のねらいは、HPで見た人が興味を持って、本書を購入してくれれば・・・・ということである。


 その期待が実るかどうかは遠くないうちに結果が出るであろうが、本の出版とインターネットをリンクするというやり方は、今後ますます重要になって来ると思われる。とくに、多くの図版を用いることが多い地理関係の出版物では、カラー図版はHP上に掲載するということが、一つの流れになっていくのではないだろうか。
 なお、上記で紹介した拙著のHPは、次の山下のHPからリンクされているので、ぜひご覧いただきたい。

http://www.toyonet.toyo.ac.jp/~yamakiyo/