「水文学」 (共立出版, 2008)に関する裏話的情報です.

本書の定価は本体9000円(税込み9450円)です.値段だけ見ると高額ですが,ページ数や本の体裁からして実はこれは驚くほど安い値段設定です.原著の List Price が$84.00 ですから,ほぼ同じ水準.

もちろん,この値段設定ができたのは1つは共立出版がいろいろ知恵を絞ってくれたからです.また原著者から原著の原稿と図のファイル(Word 形式)を提供してもらえたことも大きかったです.訳者は,このファイルを元にして数式や記号などをそのまま生かして,英語を日本語にするという作業を行い,出版社ではこのファイルをLatexに変換して組版に回したわけです.
本書の表紙用の画像は,水文学のメーリングリストで募集し,その中から選ばれたものです.こういうやり方をしている例を他には知りませんが,なかなか良い方法です.集まった画像を見た第一印象:「みんな合格」.世の中にはプロ以外にも良い写真を撮る人がちゃんといるんですね.

集まった画像を元に出版社で表紙にしたらこうなるという図案4件分を作ってくれました.若い人の意見も聞くようにとのことでしたので,担当している授業の終わりに受講者に図案を見てもらいアンケートを取って選んだのが,実際の表紙に使われている画像で,船田 晋様(撮影時,山梨大学)によるカンボジア王国・クラチェ付近で2005年6月4日夕刻に撮影された画像です.

前書きにも書いてありますが,逐語訳ではありません.文節単位ぐらいで原著の意味が伝わるような日本語にしたつもりです.ですから,言葉として英語と日本語は1対1には対応するとは限りません.
図表は,原著者の作成したファイルを元にしており,基本的には原著のままですが,校正の段階でいくつか加筆,修正が行われています.たとえば,図8.10.原著は単純な線画ですが,日本語版では液体の水の部分が灰色になっています.較べると日本語版の方が見やすいはず.また,図3.8では挿入図に風速 U, Vが登場しますが,原著には説明がありません.本筋と関係のない所なので別に困りませんが,この手の説明無しで登場する記号などについても,日本語版では説明が追加されています.こーいった変更は全て校正段階での担当編集者の方の「○○したらどうでしょうか」という発案でなされたものです.
記号に違いがあります.たとえば,原著では変数名はイタリック表示,その添字は立体となっています.日本語版はすべてイタリックです.実は原著者の書いた原稿では,日本語版と同じ表記です.日本語版の原稿は,原著者の原稿ファイルを元に日本語版原稿をつくったため,原著者の意図に忠実です.それに対して英語版の表記はCambridge University Pressで原著者の原稿ファイルに一定のルール(おそらくCUPの標準表記法なんでしょう)に従って手を加えた結果です.