山岳気象

局地風

 気象現象の中でもとりわけ私たちの身近に感じる現象のひとつに局地風があります。局地風には、強風をもたらすものと比較的穏やかなものがあります。前者には、気流が山を越える際に山岳斜面やそのふもとで吹く「おろし風」、谷の出口で吹く「ギャップ風(地峡風)」等があります。後者には、陸と海・湖の間の温度差によって吹く「海陸風」「湖陸風」や、平地と山岳の間で吹く「山谷風」があります。日下研究室ではこうした現象に対し、解析やシミュレーションを用いた研究を行っています。

(1)おろし風
 山越え気流は、山岳を越える風下側に高温、乾燥現象(フェーン現象)、強風 (おろし風)による被害をもたらすことがあります。
 これらの現象は、古くから力学的な研究が多くされてきています。
 日下研究室では統計解析や数値シミュレーションを用いて、山越え気流と地表面加熱や境界層との関係に関する研究を行っています。

(2)海陸風
 海陸風は陸面と海面の温度差が原因となって吹く風です。海陸風のより詳細な実態解明は、都市のヒートアイランドへの影響といった熱環境特性の把握にとって重要となります。海陸風は昼と夜で、おおむね風向が逆になりますが、風向きの 日変化が場所によって大きく異なるといった局地的な特徴を呈することがあります。海陸風と地形効果による局地循環との複合的な影響も含め、WRFや日下研独自のモデルを用いた研究を行っています。

(3)湖陸風
 海と陸で起こるような局地循環は、湖にも存在しています。湖陸風は海陸風と同様の原理で発生している現象ですが、海陸風に比べると風速や厚さといったスケールが小さく、あまり多くはみられていません。また、湖陸風は周囲の山谷風や一般風によってかき乱されてしまうことも多くあり、風向きの日変化も複雑となっています。特に急峻な地形をもつわが国の湖でみられる湖陸風はその傾向が大きく、湖陸風の実態や発生機構が明らかにはなっていない現状があります。こうした湖陸風について周囲の気流場との関係を含めた上で数値モデルを併用し、どのようなメカニズムになっているかを研究しています。

(4)だし風
 だし風はもともと「船を出す風」という意味で,山から平地へ,または陸から海へ吹き出す風を指します。有名なだし風に,山形県の“清川だし”や新潟県の“荒川だし”,愛媛県の“肱川あらし”があります。これらのだし風は,風が峡谷を吹き抜けてその出口で強まる「地峡風」であると考えられており,強風域ではしばしば農業や交通への被害が起こります。だし風の発生にはその地域の地形が大きく関係していますが,詳しい発生メカニズムや空間構造はまだ解っていない部分が多くあります。日下研究室では,観測や統計解析,数値シミュレーションに加え,人文地理学的な現地調査も行い,様々な視点からだし風にアプローチしています。

(文責:加藤、今井)



空っ風が吹いた日の地上風の分布(2002年2月19日14時) 荒川だしの概念図。矢印は風を示し,峡谷を吹き抜け,出口にあたる新潟県荒川地区で強風となる
学術論文など
  • Kusaka, H., H. Fudeyasu, 2017: Review of Downslope Windstorms in Japan. Wind & Structures, 24(6), 637-656, 2017/06/24 (謝辞: SIP) .
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  • 日下博幸, 西暁史,2012: 日本の局地風. 日本風工学会誌, 37(3), 164-171. 2012/08/01 .
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  • Kusaka, H., Miya, Y., Ikeda, R., 2011: Effects of solar radiation amount and synoptic-scale wind on the local wind “Karakkaze” over the Kanto plain in Japan. J. Meteor. Soc. Japan., 89(4), 327-340. 2011/08/01 (謝辞:S8, 科研費 若手研究B) .
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  • 日下博幸, 2011: 局地風の数値シミュレーション. 気候影響・利用研究会会報, 29, 5-11. 2011/07/31 .
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  • 川口純, 日下博幸, 木村富士男, 2010: ヤマセ卓越時の北上盆地での南風の解析. 地理学評論, 83(4), 375-383. 2010/07/01 .
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  • 宮由可子, 日下博幸, 2009: 鉛直構造に着目した空っ風の気候学的研究. 地理学評論, 82, 346-355. 2009/07/01 (謝辞:科研費 若手研究B) .
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  • Kusaka, H., Hayami, H., 2006: Numerical simulation of local weather for a high photochemical Oxidant even using the WRF model. JSME Int. J. Ser. B., 49, 72-77. 2006/02/15 (被引用回数:5回) .
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  • Kusaka, H., Kimura, F., Hirakuchi, H., Mizutori, M., 2000: The effects of land-use alteration on the sea breeze and daytime heat island in the Tokyo metropolitan area. J. Meteor. Soc. Japan, 78, 405-420. 2000/08/25 (被引用回数:55回) .
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フェーン現象

 近年、地球温暖化が都市温暖化に相乗的に加わることにより都市周辺で発生する猛暑への学術的・社会的関心が高まっています。このような状況の下、日下研究室では、領域気象モデルWRFを用いた数値シミュレーション、現地での気象観測、観測データの統計解析によって、地域スケールの猛暑のメカニズムの解明や気候学的特徴の調査を行ってきました。さらには、地域の猛暑の要因として重要なフェーンについても様々な視点で研究を行ってきました。ここでは、「2017年の熊谷猛暑」の研究成果の一部を紹介します。

2007年8月16日、関東平野に位置する熊谷市では40.9℃の高温が観測され、当時の観測史上国内最高気温を更新しました。

 これまで、地域スケールの猛暑が発生すると、その要因はフェーン現象の一種である力学フェーンであると説明されてきました。2007年の事例に対しても、実際に、この説を支持する論文が複数の国内誌に掲載されました。このような状況の中、博士前期課程の院生だった私(髙根雄也)は先行研究の結論に疑問を持ち、観測データを丁寧に調べ、さまざまな数値シミュレーションを行いました。その結果、山越え気流が山岳域の混合層内を長時間吹走することにより気流が地面加熱を受け、風下側の都市域が記録的な高温になったという新説を提唱し、米国気象学会の学術誌に掲載され(Takane and Kusaka 2011, JAMC)、たくさんの新聞に取り上げられました。さらには、これまで詳しく調査されてこなかった、関東平野内陸域における猛暑の発生環境の気候学的な特徴を、総観スケールからメソスケールまで網羅的に調査しました(Takane et al. 2014, IJC)。

この研究は、従来仮説に疑問を持ったら自分で丁寧に調べてみること、定性的な説明ではなく定量的な解析を行うことが非常に重要であるということを、改めて教えてくれました。

  日下研究室では、今後も様々な地域を対象に猛暑の実態調査を継続して行います。もちろん、WRFやLESを用いた数値シミュレーションを行うことによりそれらの地域の猛暑の形成要因の解明を目指します。

一般的に知られているタイプIとIIのフェーン。タイプIは熱力学フェーン(湿ったフェーン)、タイプIIは力学フェーン(乾いたフェーン)とも呼ばれる。

2007年8月16日の熊谷猛暑と、それを引き起こす山越え気流に伴う昇温の概念図。

(文責:高根雄也)

学術論文など
  • Takane, Y., H. Kusaka, H. Kondo, M. Okada, M. Takaki, S. Abe, S. Tanaka, K. Miyamoto, Y. Fuji and T. Nagai, 2016: Factors causing climatologically high temperatures in a hottest city in Japan: a multi-scale analysis of Tajimi., International Journal of Climatology., DOI: 10.1002/joc.4790, 2016/06/15(謝辞: CCS, 多治見市) .
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  • Takane, Y., H. Kusaka, H. Kondo, 2015: Investigation of a recent extreme high-temperature event in the Tokyo metropolitan area using numerical simulations: the potential role of a 'hybrid' foehn wind. Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society, 141(690), 1857-1869. 2015/07/01(謝辞: RECCA, S-8, CCS共同利用) .
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  • Takane, Y., H. Kusaka, H. Kondo, 2014: Climatological study on mesoscale extreme high temperature events in the inland of the Tokyo Metropolitan Area, Japan, during the past 22 years. International Journal of Climatology, DOI:10.1002/joc.3951.2014/02/01(謝辞:S-8, RECCA) .
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  • Takane, Y., Y. Ohashi, H. Kusaka, Y. Shigeta, Y. Kikegawa2013: Effects of synoptic-scale wind under the typical summer pressure pattern on the mesoscale high-temperature events in the Osaka and Kyoto urban areas by the WRF model.J. Appl. Meteor. Clim,52(8),1764-1778. 2013/08/01(謝辞:RECCA, S8, T2K ) .
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  • Takane, Y., Kusaka, H., 2011: Formation mechanism of the extreme surface air temperature of 40.9 C observed in the Tokyo metropolitan area: Considerations of dynamic foehn and foehn-like wind. J. Appl. Meteor. Clim., 50(9), 1827-1841. 2011/09/01(謝辞:S5, S8, T2K学際共同利用) .
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TV取材・新聞掲載など
    • NHK「ニュースウォッチ9」日下先生出演(2012年8月21日)
    • CBCテレビ「Nスタ」高根君出演(2012年8月19日)
    • CBCテレビ「イッポウ」日下先生出演(2011年6月30日、2010年8月16日)
    • 東海テレビ「ぴーかんテレビ」日下先生出演(2010年7月26日)
    • 日経新聞 研究成果掲載(2011年7月21日、2011年7月22日)
    • 毎日新聞 研究成果掲載(2012年7月8日、2011年7月22日)
    • 朝日新聞 研究成果掲載(2011年7月22日、2010年7月23日)
    • 中日新聞 研究成果掲載(2012年8月22日、2011年7月1日、2010年5月28日、2010年7月31日)


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局地前線

 局地前線とは,総観規模(天気図スケール)では見られないような風・気温の急変化域のことを指します。日下研究室では日本海低気圧や南岸低気圧に伴って発生する関東地方の局地前線を対象に研究を行っています。

 関東地方の局地前線は、長さ数百km・厚さ数百m程度の規模で、関東内陸に生じた冷気層に海からの暖気が滑昇して発生すると言われています。また、局地前線ができることによって、関東内陸の視程悪化や降水量増加などが生じることが知られています。現在の数値予報技術でも局地前線の予測は可能ですが、時間的・空間的なズレが生じやすく、気温や風、降水量の予報が大きく外れてしまうことがあります。天気予報を行う上で、局地前線のより正確な予測が求められます。

 局地前線の位置はどのように決まるのでしょうか?また、局地前線発生のキーポイントとなる冷気層や暖気移流はどのように発生・発達するのでしょうか?

 日下研究室では、観測データを用いた統計解析やWRFモデルによる数値シミュレーションを通して、局地前線の発生メカニズムの解明に取り組んでいます。

(文責:平田航)

学術論文など
  • Kusaka, H., Kitahata, H., 2009: Synoptic-scale climatology of cold frontal precipitation systems during the passage over central Japan. SOLA, 5, 61-64. 2009/05/01 .
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サーマル

筑波大学の所在地である関東平野は日本でも有数のスカイスポーツが盛んな地域です。
その中でも動力源を持たないパラグライダー、ハングライダー、グライダーなどの滑空機は上昇気流をうまく活用して高度を獲得しています。

上昇気流としてはサーマル(熱対流)、アーベントテルミック、斜面上昇風、山岳波などが知られていますが、特に晴れた休日の筑波山周辺の空ではサーマルに代表されるこれらの上昇気流を活用して高度を獲得しているパラグライダー、ハングライダーが多く見られます。

このようにサーマル自体の存在は古くから知られています。
しかしサーマルの特性に注目した研究は少なく、発生傾向や構造は未だに完全な解明に至っていません。
これらが明らかになることで飛行技術の取得期間が短縮されスカイスポーツがより身近なものになることが期待されます。

(1)サーマル
気温・湿度・風速等の観測LESモデルを用いた数値実験を行うことで、サーマルの発生傾向や構造に関しての解析を実施しています。

(2)アーベントテルミック
アーベントテルミックと呼ばれる、夕方に発生する上昇流について観測と数値シュミレーションを行い海陸風との関係を調査しています。

(文責:豊田良平)

ハンググライダーのGPSで捉えられたサーマル

ハンググライダーの航跡を示した赤い線が、サーマルによって弧を描きながら上昇しているのが見て取れます。

学術論文など

    記事はありません。

斜面温暖帯

 通常、気温は上空ほど低くなりますが、よく晴れた風の弱い夜間には、山の麓よりも山腹の方が気温が高くなるという「斜面温暖帯」と呼ばれる現象がみられます。
 このような現象は古くから知られており、山の中腹でみかん農園が営まれている等、大昔からその恩恵に預かっています。
 しかしながら、斜面温暖帯の形成要因についてはまだ分かっていないことも多く、接地逆転層の発達や夜間の放射冷却、森林の蓄熱の寄与といった効果がどの程度影響しているかは、はっきりとは解明されていません。
 私達の研究室では、地の利を生かした筑波山をフィールドとし、サーモカメラ等の最先端観測機器を用いた斜面温暖帯の観測(下図)や高解像度した数値シミュレーションによる研究を行っています。

(文責:加藤)

筑波山北西斜面で観測された斜面温暖帯の熱赤外画像(2012年12月13日21:00 加藤撮影)

地形性降水

 日本ではしばしば、豪雨が洪水や都市機能の麻痺を引き起こします。とくに夏の午後には、不安定な大気の下で積乱雲が成長し、局地的な対流性降水が多く発生します。

 海外では古くから、対流性降水が海風や谷風などの影響を受けて日変化すると指摘されてきました。日本もその例外ではありませんが、海外よりも複雑な地形や土地被覆をしており、降水発生のメカニズムも複雑となっています。また、雨は非線形性が強く、「たまたま」起こることが多い現象です。したがって、一つの降水事例について解析や数値シミュレーションを行うだけでは、実際の降水メカニズムを十分に解釈することは困難です。

 日下研究室では、統計解析やWRFモデルによる数値シミュレーションなど複数のアプローチから、局地的な大雨の発生要因について研究しています。とくに数値シミュレーションを行う際に、気候実験やモデルアンサンブルといったテクニックを用いることで、非線形性の強い降水の発生要因を正しく理解しようと試みています。

(文責:工藤)

近畿地方の夏季に発生する強雨

 山・海が近接する近畿地方で発生する強雨の発生要因について、統計解析・数値シミュレーションによって調べました。静穏な日には、昼は谷風の影響により山岳部で、夕方は海風の収束効果も加わって陸地の形状に沿うように強雨が発生することを明らかにしました。

WRF理想化実験の結果 12-15時の3時間積算降水量
【左】 コントロール実験
【中央】 地形を除去した実験
【右】 海を陸地に変更した実験

近畿地方を対象に、夏季の静穏な日を想定して理想化実験を行った。山と海が近接する近畿地方では、日中海風と谷風が複合して積雲が発達する特徴があり、昼頃に山岳域で降水が発生している(左図)。感度実験の結果、昼の降水発生には、海風より先に発達する谷風の収束が支配的であることが分かった(中央・右図)。

学術論文など
  • 久野 勇太, 日下 博幸, 2014: 濃尾平野周辺における夏季強雨の気候学的特性, 天気, 61, 661-667. 2014/08/31 .
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  • 日下博幸, 羽入拓朗, 縄田恵子, 2010: GPS可降水量に着目した局地豪雨の事例解析 - 2000年7月4日に東京で観測された事例, 地理学評論, 83(5), 479-492. 2010/09/01 .
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 日本周辺は、世界で最も霧が発生しやすい地域の一つです。特に、盆地霧や太平洋沿岸地域の海霧がよく知られています。霧は、交通障害を引き起こすなど私たちを困らせる存在でもありますが、一方で、その幻想的な風景は多くの観光客を魅了し、地域の活性化にもつながります。このように、霧は私たちにとってとても身近な存在です。しかしながら、霧についてはまだまだ理解されていない部分が多々残されています。さらに、霧の発生予測は非常に難しいです。そこで、少しでも霧への理解が進み、予報精度が向上するように、霧の研究を行っています。

 日下研究室では、これまで、霧の発生が多い地域(会津盆地、茨城空港、箱根)を対象に霧の実態調査を行ってきました。さらに、最近では霧を再現する数値モデルの開発も行っています。

(1) 会津盆地の霧
会津盆地では、どんな時に霧が発生しやすいのかを統計的に調査しました。
その結果を利用することで、会津盆地の霧の予報精度を向上させることに成功しました。

(2) 茨城空港の霧
関東平野にたくさんあるライブカメラの映像から、茨城空港で発生した霧の空間分布を調べ、どのようなタイプの霧が多いのかを調べました。
その結果、海上で発生した霧が流れ込んでくるケースと茨城空港で局所的に霧が発生するケースの2種類が多いことがわかりました。

(3) 箱根の霧
観光地である箱根には、狭い範囲にたくさんのライブカメラが設置してあります。
そのライブカメラを用いて、箱根で発生した霧の実態調査を行いました。
その結果、近接するエリアでも、標高や周囲の地形により、霧発生状況が異なっていることが明らかになりました。

(4) 霧モデルの開発
本研究室で開発中のLESモデルに、大気放射モデル、詳細な雲物理モデルなどを導入し、放射霧の数値シミュレーションに挑戦しています。

今後は、ライブカメラ解析や数値実験から、霧の形成メカニズムについて調査していきます。

(文責:秋本)

ライブカメラが捉えた芦ノ湖の霧
ライブカメラの映像(左), 晴天時(中央), 霧発生時(右)

出典:箱根ウェブカメラ|箱根全山(http://www.hakone.or.jp/web-camera/)
学術論文など
  • Akimoto, Y., H, Kusaka., 2015: A climatological study of fog in Japan based on the event data, Atmospheric Research., Atmos. Res., 151, 200-211. 2015/01/01(謝辞: 創生,RECCA) .
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