力学的ダウンスケーリング手法を用いた領域気候の将来予測に関する数値モデル研究 —アジア域への適用と領域NICAMの開発—

  • 原 政之, 2014: 力学的ダウンスケーリング手法を用いた領域気候の将来予測に関する数値モデル研究 —アジア域への適用と領域NICAMの開発— .

 本論文では、アジアを対象とした力学的ダウンスケーリングに関する研究を行い、新たな領域気候モデル(RCM)の開発を行った。はじめに、RCMを3つの研究対象領域に対して適用し、力学的ダウンスケーリングの利点について示す。RCMは、一般に、全球気候モデル(GCM)と比較して、土地利用、植生、地形などの地表面状態が詳細に表現されるため、地上近くの大気現象の表現がGCMよりも良くなる。
はじめに、海洋大陸上を対象として20km格子MRI-GCMで再現された降水とTRMM 2A25 near surface rainの再現性の比較検証を行った。特に、降水の日変化と位相の分布を焦点としている。水平スケールが200kmよりも小さい島嶼・海峡では、降水特性の再現性が高かった。一方、スマトラ島・ボルネオ島などの水平スケールが大きい島では、降水の日変化の位相の再現性が低かった。これらの島上では、20km格子MRI-GCMで再現された降水は午後早い時刻に最大になるが、TRMM 2A25では夜間に最大となる。特に水平スケールが大きい島の内陸部では、再現された降水の日変化が観測値と逆転している。また、スマトラ島西岸沖では降水量が過小評価となっており、海岸線に直行する方向に系統的な位相のずれも見られた。一方、水平スケールの大きなボルネオ島上での積雲対流パラメタリゼーションを用いずに、非静力学モデルによる高解像度の実験では降水の日変化の位相が観測されたものを良く再現された。また、降水帯の移動や内陸部において深夜に降水が最大となる様子が再現された。局地循環の再現を行うために20kmの解像度は十分であると考えられるが、20km格子MRI-GCMでは水平スケールが200km以上の大きな島上などの降水の日変化の再現性が低い場所がある。この原因は、20km格子MRI-GCMで用いられている積雲対流パラメタリゼーションでは対流活動と局地循環が結合したシステムを適切に表現できないためと考えられる。
更に、日本域を対象とした冬期領域気候の現在気候再現・将来気候予測実験を行い、特に、積雪、都市ヒートアイランドについて解析を行った。過去100年間における東京の地上気温上昇は約3℃であるが、全球平均の地上気温上昇は0.66℃である.この違いの原因は,この間に顕著になった都市ヒートアイランドによる影響が大きい.都市ヒートアイランドによる地上気温の上昇は,冬季に最大となる.本研究では,都市キャノピーモデルを含む高解像度領域気候モデルWRFを用いて過去気候の再現実験を実施し,さらに擬似温暖化手法を用いて,SRES A2における2070年代を想定した将来気候実験を行った.これらから全球規模の気候変動が冬の東京都市圏における都市ヒートアイランド強度 (Urban Heat Island Intensity; UHII)に与える影響を評価した.その結果,気候変動によって,夜間のUHIIは約20%以上強まることが示唆された.
これらの研究を進めて行く中で、力学的ダウンスケーリングの結果の不確実性に関する原因が見いだされてきた。力学的ダウンスケーリングの結果に不確実性が含まれる原因は、幾つかある。将来シナリオの不確実性、GCM・RCMなど数値モデルの不確実性などと並び、GCMとRCMの物理過程などの不整合によってもたらされる不確実性も挙げられる。全球高解像度実験による気候実験が理想的だが、現状では計算資源に限りが有るため困難である。また、ある特定の領域のみを対象とした再現実験・将来予測実験が必要とされる場合に、全球実験を行うことは現実的ではなく、近い将来には、高解像度でも実行が可能なGCMの結果を基にして、そのGCMと同様の力学・物理過程を持ったRCMでダウンスケーリングを行うことが考えられる。このような考えに基づき、ダウンスケーリング研究で問題になっていたこれらの点に資するために、雲解像スケールの現象が再現出来るGCMを基にして、新たな領域気候モデルの開発を行った。ここで開発された領域気候モデルを海洋大陸での対流活動の日変化を対象として検証を行ったところ、全球高解像度実験の結果と比較して同程度の再現性であることが確認できた。

この博士論文の第2章の関連論文は以下の論文です。(http://dx.doi.org/10.3178/hrl.2.61)
この博士論文の第3章の関連論文は以下の論文です。 (http://www.nagare.or.jp/download/noauth.html?dd=assets/files/download/noauth/nagare/29-5/29-5gencho2.pdf)
この博士論文の第4章の関連論文は以下の論文です。 (http://dx.doi.org/10.2151/jmsj.87A.413)