日下先生の本、「学んでみると気候学はおもしろい」 が、8月2日に出版されました。

ベレ出版のHPで紹介されています。こちらから。   正誤表


本の帯の裏より

 ◎気象学と気候学の違いとは??

 ◎地球温暖化とヒートアイランドの違いとは?

 ◎気象予報士でも意外と知らない小気候とは?

 ◎本当に、都市はゲリラ豪雨を生み出すのか?

 ◎気候は、どのように形成されるのか?

 


はじめに ~ 本には書けなかったこと

紙と鉛筆で計算してみよう、温暖化とヒートアイランド(続き)

大気の現象を理解するためには、写真や挿絵を使った定性的な説明からイメージをつかむことがとても大事です。初学者の場合は、難しい数式を解くよりも、イメージをつかむことの方がはるかに大事だと思っています。しかし、さらに深く理解するためには、現象の本質を抜き出し、モデル化し、定量的な検討をする必要があります。

「学んでみると気候学はおもしろい」では、数式を使わずに現象のメカニズムを説明するという方針が掲げられていたため、定量的な議論はできませんでした。そこで、このホームページでは、本に書くことができなかった、ヒートアイランドと温室効果に関する定量的な説明を行いたいと思います。

みなさんも、ノート、ルーズリーフ、ちらしの裏などを使って、ヒートアイランドと温室効果の計算を実際にやってみてください。計算が終わったときには、「なぜ、ヒートアイランドは日中よりも夜間にはっきりと現れるのか?」、「温室効果がある場合、これがない場合に比べて、なぜ地球の平均気温が高くなるのか?」、以前より少し深くわかったような気分になると思います。 

ヒートアイランドの要因論、都市とゲリラ豪雨の関係に関する仮説

「学んでみると気候学はおもしろい」では、著者の主張はなるべく避け、気候学分野で言われている仮説や要因論をなるべく広く紹介する、そして、それらについてはたんたんと書く、という方針が掲げられました。本には、著者の思いをおもいっきり書くものと、そうでないものがありますが、編集方針もあり、今回は後者で行こうということになりました。

ヒートアイランドの要因論には、大きく分けて「熱的要因論」と「力学的要因論」の二つがあります。また、「熱的要因論」は、「緑地の減少説」、「熱慣性説」、「人工排熱説」、「放射冷却(の緩和)説」などがあります。どれが支配的か、学会でも完全には決着が着いていません。

都市と降水の関係についても、「関係がある」という立場の研究者と、「関係がない」という立場の研究者がいます。また、「関係がある」という立場の研究者の間でも、都市があるとなぜ降水が強められるか?なぜ降水量が増えるのか?については、統一的な見解は得られていません。様々な仮説がかかげられています。

読者のなかには、ヒートアイランドや都市豪雨に対して、著者がどの説を支持しているのか?気になる方もいると思います。そこで、このホームページでは、著書では書くことのできなかった、これらに対する私見について述べたいと思います。あくまで私見であり、必ずしも正しというつもりはありません。なぜそう思っているのか、理由を聞き、みなさん自身で考えてみてください。

(以下、執筆中)


付録1 ヒートアイランドの計算をやってみよう

日中のヒートアイランド

 日中のヒートアイランドを本書図3.10と付録図1を見ながら考えてみましょう。いま、地表面から大気へ熱(顕熱)が出ているとします。都市からは郊外よりも\( \Delta H[W/m^2] \)(カッコ[]は単位)多く大気に熱が出ているとします。都市と郊外どちらも混合層がよく発達しており、その高度は、どちらも\( h_d[m] \)まで達しているとします。 日中、このような状況が\( \Delta t \)時間続いていたとすると、都市上空の大気は郊外に比べて、

\[ \Delta Q = \Delta H \times (\Delta t \times 3600) \tag{1} \]

だけ多く熱を受け取っていたことになります。

 
【付録図1】

 付録図1は、日中のある時刻における都市と郊外の気温の鉛直分布です。本書図3.10では地上付近の気温減率がカーブを描いていますが,ここでは簡単の ために気温減率一定(直線)と仮定します.また,混合層高度は郊外に比べて都市の方が高くなりますが,ここでは同じと仮定します.

 第1章で述べたように、熱\( \Delta Q[J/m^2] \)を与えた時の昇温量\( \Delta T[K] \)を表現するものとして比熱\( C_p[J/kg/K] \)というものがあります(1.4節)。比熱を用いると、大気\( 1[kg] \)の気温を\( \Delta T[K] \)あげるのに必要な熱量は、\( C_p \Delta T[J/kg] \)と書けます。

 あとは、大気の質量が分かれば、その大気を\( \Delta T[K] \)あげるのに必要な熱量が求まります。ここで、都市と郊外における混合層を単位面積あたりの高さ\( h_d[m] \)の気柱と考えます。この気柱の体積は\( h_d[m^3] \)なので、気柱の質量は、この気柱の体積\( h_d[m^3] \)に密度\( \rho[kgm^3] \)を掛け合わせた\( \rho \times h_d[kg] \)になります。

 この気柱を\( \Delta T[K] \)暖めるのに必要な熱量は、

\[ \Delta Q = \rho \times h_d \times C_p \times \Delta T \tag{2} \]

となります。

 都市上空の気柱の温度が郊外に比べて\( \Delta T \)高くなるために必要な熱量(式(2))は、都市上空の大気が郊外に比べて多く受け取った熱量(式(1))に等しくなります。

 したがって、式(1)= 式(2)より、

\begin{align*}
\Delta H \times (\Delta T \times 3600) = \rho \times h_d \times C_p \times \Delta T
\end{align*}

となりますので、この式をΔTについて書き直すと、

\[ \Delta T = \dfrac{\Delta H \times (\Delta T \times 3600)}{\rho \times h_d \times C_p} \tag{3} \]

となります。

 ここで、付録図1の都市と郊外の気温の鉛直分布の線で囲まれた平行四辺形(シェードのかかった部分)をみてください。この部分の面積は\( \Delta T \times h_d \)であることが分かります。式(2)と比べると、気柱の温度を\( \Delta T \)上げるために必要な熱量は、この平行四辺形の面積に\( \rho \times C_p \)をかけて求めてもよいことがわかります。

 この考え方は、夜間のヒートアイランドの問題でも使います。

夜間のヒートアイランド

 次に、風の弱い晴天日に発達する夜間のヒートアイランドについて本書図3.10と付録図2を見ながら考えてみましょう。早朝の都市郊外にある草地上で、付録図2のように、高度\( h_n[m] \)まで逆転層が発達していると仮定します。この逆転層は、夜間の放射冷却によって形成されたものです。一方、都市では、人工排熱や日中に建物などに蓄えられた熱の放出によって、郊外よりも\( \Delta H[W/m^2] \)多く大気に熱が出ているとします。そのため、放射冷却による気温低下が緩和され、逆転層が発達していないと仮定します。

 
【付録図2】

 付録図2は、夜間のある時刻における都市と郊外の気温の鉛直分布です。ここでは議論を簡単化するため、夜間の都市のヒートアイランドの影響は、、郊外の逆転層高度と同一の高度\( h_n[m] \)まで及んでいると仮定します。

 都市の大気が郊外の大気よりも多く受け取った熱量\( \Delta Q[Jm^2] \)を求める式は、日中の場合と同じく式(1)となります。

 付録図2は、早朝の都市と郊外の気温の鉛直分布です。都市上空の気柱が郊外よりも多く受け取った熱量は、図のシェードのかかった部分の面積\( (1/2) \times \Delta T \times h_n \)に、\( \rho \times C_p \)をかけることで求めることができますので、

\[ \Delta Q = \frac{1}{2} \times \rho \times C_p \times \Delta T \times h_n \tag{4} \]

となります。ここで、都市上空の気柱の温度が郊外に比べてΔT高くなるために必要な熱量(式(4))は、都市上空の大気が郊外に比べて多く受け取った熱量(式(1))に等しいので、式(1)= 式(4)より、

\begin{align*}
\Delta \times (\Delta T \times 3600) = \frac{1}{2} \rho \times C_p \times \Delta T \times h_n
\end{align*}

となります。この式を\( \Delta T \)について書き直すと、

\[ \Delta T = \dfrac{2 \times \Delta H \times (\Delta T \times 3600)}{\rho \times C_p \times h_n} \tag{5} \]

となります。

日中と夜間のヒートアイランド強度の比較

 夜間のヒートアイランドの計算から始めましょう。都市では郊外よりも平均で\( \Delta H = 5[W/m^2] \)だけ熱が多く出ていて、このような状況が日没から早朝まで12時間続いていたと仮定します。早朝の混合層の高度\( h_n \)は100mと仮定します。この場合の都市と郊外の気温差\( \Delta T \)は、式(5)より計算することができます。これらの値と大気の定圧比熱\( C_p \)の値\( 1004[J/kg/K] \)、空気の密度\( \rho (1.2[kg/m^3]) \)を式(5)に値を代入すると、

\[ \Delta T = \dfrac{2 \times 5[W/m^2] \times 12 \times 3600[sec]}{1004[J/kg/K] \times 1.2[kg/m^3] \times 100[m]} \]

となります。これを計算すると約3.6 ℃になります。都市の気温は郊外よりも3.6 ℃高くなることが分かりました。

 次に、日中のヒートアイランドの計算をしてみましょう。まず、夜間のときと同じように都市では郊外よりも平均で\( 5W/m^2 \)だけ熱が多く出ていて、このような状況が9時間続いていたとします。このとき、混合層の高さ\(h_d\)は1000mまで発達したとします。この場合の都市と郊外の気温差\( \Delta T \)は、式(3)より計算することができます。式(3)に値を代入すると、

\[ \Delta T = \dfrac{5[W/m^2] \times 9 \times 3600[sec]}{1004[J/kg/K] \times 1.2[kg/m^3] \times 1000[m]} \]

となります。これを計算すると約0.13℃になります。都市は郊外よりも約0.13 ℃高くなることが分かりました。夜間と同じだけの顕熱差を与えていますが、都市と郊外の気温差は夜間に比べて約30分の1となりました。これは、熱を与えた時間が短いこともありますが、基本的には、昼間は1000mまで混合層があり、それだけ暖めなければならない大気の層が厚かったためです。

 実際の都市と郊外の顕熱差はもっと大きいため、より現実的な値を入れて計算してみましょう。都市は、人工排熱(\( 20W/m^2 \))と緑地が減少したことによる顕熱の増加分(\( 40W/m^2 \))を合わせた分(合計\( 60W/m^2 \))だけ郊外より熱を多く出していると仮定します。式(3)に代入して\( \Delta T \)を求めると、約1.6℃となります。これでも夜間の都市と郊外の気温差よりも小さくなっています。ヒートアイランドは夜間に顕著となる現象だということが分かります。

 上の計算では、都市と郊外の熱交換を考慮しておらず、さらに日中の都市の混合層高度は郊外と同じと仮定しています。実際には風によって熱が都市の外へ出て行ってしまうこと、都市の混合層高度は郊外よりも高くなることを考えなければいけません。これらの影響は都市と郊外の気温差を小さくするほうに働きます。


付録2 温室効果の計算をやってみよう

 温室効果については、4.4節ですでに説明してありますが、ここでは、実際に計算することにより、温室効果を実感してみることにしましょう。以下の式では、人によっては見慣れない記号もあるかもしれませんが、その意味がわかれば、計算自体は簡単ですので、電卓を片手にぜひ自分の手で計算してみてください。

はじめに、温室効果がない場合の計算を本書図5.11を見ながらやってみましょう。

温室効果がない場合、地表面における放射平衡の式は以下のようになります。

   \( S=L \) より \((1- \alpha ) S_0 \pi R^2 = 4\pi R^2 \sigma T_s^4 \tag{1} \)

左辺は地球が受け取る日射エネルギーL、右辺が地球から出ていくエネルギーSで、両者がバランスしています。\( T_s[K] \)が求めたい地表面温度です。\( R[m] \)は地球の半径で、日射があたっている面積は図4.1からわかるように地球の断面積になるので\( \pi R^2 \)、地球から出ていくエネルギーは、地球全体からでていくのでその面積は\( 4\pi R^2 \)になります。\( \alpha \)は日射に対する地球の反射率でアルベドとよばれるものです。地球の平均アルベドは0.3くらいであることが観測からわかっています。\( S_0 \)は、地球に入射してくる日射エネルギーで、\( 1370[W/m^2] \)となります。\( \sigma \)はステファン・ボルツマン定数とよばれていて、\( 5.67 \times 10^{-8}[W/m^2/K^4] \)となります。

式(1)を地表面温度(\( T_s \))について解くと以下のような形になります。

\[ T_s = \biggl( \dfrac{(1-\alpha)S_0}{4\sigma} \biggr)^{\frac{1}{4}} \tag{2} \]

式(2)に\( \alpha, S_0, \sigma \)の値を代入すると、\( T_s \)は約-18[℃]となります。現実の地球の平均気温15[℃]よりもずいぶん低い値となっています。

 次に、温室効果がある場合の計算を本書図5.12を見ながらやってみましょう。大気は地球放射を完全に吸収し、日射に対しては完全に透過すると仮定した場合、地表面と大気における放射平衡の式は以下のようになります。ここで、\( T_1[K] \)は大気の温度とします。

   \( S + L_2 = L_1 \) より \( (1-\alpha)S \pi R^2 + 4\pi R^2 \sigma T^{4}_1 = 4 \pi R^2 \sigma T^{4}_s \tag{3} \)

   \( L_1 = L_2 + L_3 \) より \( 4\pi R^2 \sigma T^{4}_s = 4 \pi R^2 \sigma T^{4}_1 + 4 \pi R^2 \sigma T^{4}_1 \tag{4} \)

式(3)は地表面における放射平衡の式、式(4)は大気における放射平衡の式です。いずれの式も、左辺はそれぞれが受け取るエネルギーで、右辺は出て行くエネルギーです。この連立方程式を解くと、\( T_s \)と\( T_1 \)について、以下の解が得られます。

\[ T_s = \biggl( \dfrac{(1-\alpha)S_0}{2\sigma} \biggr)^{\frac{1}{4}} \tag{5} \]

\[ T_1 = \biggl( \dfrac{(1-\alpha)S_0}{4\sigma} \biggr)^{\frac{1}{4}} \tag{6} \]

式(5)と式(6)に、\( \alpha, S_0, \sigma \)の値を代入すると、\( T_s \)は約30[℃]、\( T_1 \)は約-18[℃]という値が得られます。温室効果を考慮すると地表面温度が高くなることがわかりました。

これまでは、大気は日射を完全に透過し、地球放射を完全に吸収すると仮定していました。実際には、日射の一部を吸収し、地球放射の一部を透過させます。そこで、ここからは、これらの効果を考慮して計算を行います。大気が日射を吸収する割合を\( \beta \)、地球放射を吸収する(射出する)割合を\( \epsilon \)とおいて、もう一度、式を組み立て直すと以下のようになります。

\[ (1-\alpha)(1-\beta)S \pi R^2 + 4 \pi R^2 \epsilon \sigma T^{4}_1 = 4 \pi R^2 \sigma T^{4}_s \tag{7} \]

\[ (1-\alpha)\beta S \pi R^2 + 4 \pi R^2 \epsilon \sigma T^{4}_s = 4 \pi R^2 \epsilon \sigma T^{4}_1 \tag{8} \]

式(7)と式(8)は、それぞれ、地表面と大気における放射平衡の式になります。

この連立方程式を、\( T_1 \)と\( T_s \)について解くと、以下の式が得られます。

\[ T_s = \biggl( \dfrac{(1-\alpha)(2-\beta)S}{4\sigma (2-\epsilon)} \biggr)^{\frac{1}{4}} \tag{9} \]

\[ T_1 = \biggl( \dfrac{(1-\alpha)(\epsilon -\epsilon \beta + \beta)S}{4\sigma\epsilon (2-\epsilon)} \biggr)^{\frac{1}{4}} \tag{10} \]

\( \beta \)を0とし、\( \epsilon \)を1としたものは、日射を完全に透過し、地球放射を完全に吸収すると仮定した式の解である式(5)と式(6)に一致します。

日射の透過率\( \beta \)を0.2、地球放射の吸収率(射出率)\( \epsilon \)を1とした場合、\( T_s \)は22[℃]、\( T_1 \)は-18[℃]となります。地表面が受け取る日射量が減ると、地表面温度が少し低くなることがわかります。一方、\( \beta \)を0.2、εを0.9とした場合、\( T_s \)は15[℃]、\( T_1 \)は-23[℃]となります。地表面温度はやや低くなり、大気の温度はやや低くなることがわかります。


付録3 地表面の熱収支を計算してみよう