関東平野内陸域で発生する極端高温現象のメカニズム

  • 髙根 雄也, 2012: 関東平野内陸域で発生する極端高温現象のメカニズム .

 近年,地球温暖化と都市温暖化との関連から都市域で発生する極端高温現象への関心が高まっている.これまで,先行研究によって関東平野内陸域で発生する極端高温現象の発生頻度が過去から現在にかけて増加していることや,その増加の要因は高温気団下の晴天日の増加と都市化であることが示されてきた.また,1994 年8 月3 日,1997 年7 月5 日,2007 年8 月16 日に発生した極端高温現象には,山越え気流に伴う昇温(フェーン)が関与していることが指摘されてきた.しかしながら,フェーンの発生が,過去に発生したその他の極端高温現象に共通した特徴かどうかは不明であった.また,夏季に関東平野で発生するフェーンのメカニズムは,これまで詳しく調査されていなかったためよく分かっていなかった.したがって,フェーンによって発生すると指摘されてきた極端高温現象の形成メカニズムもよく分かっていなかった.本研究では,まず過去22 年間に関東平野内陸域で発生した極端高温現象の発生タイプを観測データにより把握することによって極端高温現象の気候学的な特徴を調べた.その上で,観測データと領域気象モデルを用いて,同地域で発生する極端高温現象の形成メカニズムを,フェーンのメカニズムとともに調べた.
 過去22 年間の観測データを用いて極端高温現象発生の必要条件を調べた.その結果,必要条件は当日の高い日最低気温と850 hPa 等圧面高度における高い気温であることが分かった.これら2 つの必要条件を満たす極端高温現象発生日を,気圧配置型・関東平野内陸域の日中の地上風の型・前日までの連続晴天日数の値の組み合わせで分類した.その結果,計27 種類のタイプの中で最頻出のタイプは「鯨の尾型・南東風型・4 日以上の連続晴天」を兼ね備えたタイプであることが分かった.この結果は,フェーンの発生が極端高温現象発生の必要条件ではないことを意味している.また分類の結果,事例数こそ少ないが「鯨の尾型・北西風型・4 日以上の連続晴天」タイプは,関東平野内陸域が最も高温になりやすいタイプであることが分かった.この結果は,フェーンが発生した日に,関東平野内陸域が特に高温となる可能性を示唆している.
 2011 年6 月24 日に発生した39.8℃の極端高温現象(「鯨の尾型・北西風型・0-1 日の連続晴天」のタイプ)と2007 年8 月16 日に発生した40.9℃の極端高温現象(「鯨の尾型・北西風型・4 日以上の連続晴天」のタイプ)の形成メカニズムを多角的に調べた.2011 年6月24 日の極端高温現象は,関東平野の南部を覆う南西風と北西部を覆う西寄りの風の収束域の北縁で発生していた.この極端高温現象の形成メカニズムを調べるために,オイラー熱収支解析を実施した.その結果,極端高温現象形成の主要因は,西寄りの風の侵入であることが分かった.この西寄りの風の侵入経路と風下の気温上昇(フェーン)のメカニズムを,後方流跡線解析・ラグランジュエネルギー収支解析・オイラートレーサ実験により調べた.その結果,西寄りの風の侵入に伴う風下の気温上昇(フェーン)のメカニズムは,典型的なフェーンのメカニズムとして知られているドライフェーンとウェットフェーンが組合わさった,新たなメカニズム(hybrid-foehn)であることが分かった.これまでドライフェーンとウェットフェーンは理想的な環境場においては,発生する環境場が互いに異なるため別々に発生すると考えられてきたが,上記の結果は複雑地形が存在し現実的な環境場においては,両者のフェーンが組合わさり風下の高温をもたらす可能性があることを示唆している.
 2007 年8 月16 日に発生した極端高温現象は,おもに以下に示す2 つ要因が組み合わさった結果,発生したことが分かった.1) 2007 年8 月16 日の前7 日間は,晴天が連続していた.この前7 日間の連続晴天日数は,1998~2008 年の7・8 月の統計では12 番目に大きい値であった.連続晴天によって土壌が乾燥し,それによって地表面から大気へ供給される顕熱フラックスが増加していた.そしてこの顕熱フラックスの増加が極端高温現象の発生に寄与していたことが分かった.このメカニズムは,中部山岳域の土壌水分量の感度実験によって確認された.2) 数値実験の結果,地表面からの非断熱加熱を伴うフェーンの存在が確かめられた.このフェーンは,気流が中部山岳と関東平野内陸域の混合層内を吹走する際に,サブグリッドスケールの乱流拡散と地表面からの顕熱供給によって加熱され,この加熱された気流が侵入することによって風下側の地上が昇温するメカニズムである.後方流跡線解析とラグランジュエネルギー収支解析の結果,この地表面からの非断熱加熱を伴うフェーンが,先行研究が指摘していた典型的なドライフェーンに比べて極端高温現象の発生に大きく寄与していたことが分かった.
 以上の結果は,関東平野内陸域で発生する極端高温現象の形成に,これまでに報告されていなかった新たなフェーンが寄与していることを示すものであり,これまで議論されてきた極端高温現象とフェーンのメカニズムに新たな解釈を与えるものである.

博論に関連した論文がInternational Journal of Climatologyに掲載されました(2014)。 
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博論に関連した論文がJ. Appl Meteor Clim.に掲載されました(2013)。
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