足尾山周辺で発生するアーベントテルミックのメカニズムの研究

  • 秋本 祐子, 2007: 足尾山周辺で発生するアーベントテルミックのメカニズムの研究 .

 本研究では、茨城県足尾山で夕方に発生する広域な弱い上昇流(以下、足尾アーベント)の発生原因を明らかにするため、次の2つの調査を行った。はじめに、パラグライダーの飛行記録を用いて、上昇流の分布を調べた。次に、WRFを用いた数値シミュレーションを行い、足尾アーベント発生時の気象場を解析した。

足尾アーベントが発生したと報告のあった5事例のうち、風向の異なる3事例について、パラグライダーの飛行記録を比較した。この飛行域は、風向により差異が見られ、どの事例でも風がぶつかる斜面上に軌跡が集中していた。これらのことは、足尾アーベントの形成に力学的要因が強く影響していることを示している。数値シミュレーションでも、風がぶつかる斜面上に強い上昇流域が発生する様子が見られた。その上昇流域の水平分布は、パイロットの飛行軌跡の集中域とおおよそ一致していた。

さらには、足尾アーベントが発生したと報告があった時間帯の気象場の解析を行った。足尾アーベント発生時、パイロットの軌跡は、前述した足尾山の風上斜面上と脊梁部に集中していた。同じ時間帯に、足尾山南東側山麓の観測地点で、海風と思われる冷気移流見られた。数値シミュレーションでも、上記時間帯に、海岸部から風速の強い領域が内陸部へ進入していく様子が認められた。それに伴って、夕方になると山の斜面に集中する様子を示した。その高度は同時間帯に飛行していたパイロットの飛行高度と一致していた。シミュレーション結果は、この時、足尾山山麓で、東側斜面に吹き込む風が強まり、山越え気流が生じる様子を示していた。そして、それに伴って、山の風上斜面上に広域な弱い上昇流帯を示していた。その上昇流域は、午前中に見られた谷風循環よりも明らかに広域であった。これらの結果は、夕方の移流に伴った山越え気流が足尾アーベントの形成の主要因であることを示唆している。