猛暑(健康影響評価,フェーン現象)

猛暑とフェーン現象

 近年、地球温暖化が都市温暖化に相乗的に加わることにより都市周辺で発生する猛暑への学術的・社会的関心が高まっています。このような状況の下、日下研究室では、領域気象モデルWRFを用いた数値シミュレーション、現地での気象観測、観測データの統計解析によって、地域スケールの猛暑のメカニズムの解明や気候学的特徴の調査を行ってきました。さらには、地域の猛暑の要因として重要なフェーンについても様々な視点で研究を行ってきました。ここでは、「2017年の熊谷猛暑」の研究成果の一部を紹介します。

2007年8月16日、関東平野に位置する熊谷市では40.9℃の高温が観測され、当時の観測史上国内最高気温を更新しました。

 これまで、地域スケールの猛暑が発生すると、その要因はフェーン現象の一種である力学フェーンであると説明されてきました。2007年の事例に対しても、実際に、この説を支持する論文が複数の国内誌に掲載されました。このような状況の中、博士前期課程の院生だった私(髙根雄也)は先行研究の結論に疑問を持ち、観測データを丁寧に調べ、さまざまな数値シミュレーションを行いました。その結果、山越え気流が山岳域の混合層内を長時間吹走することにより気流が地面加熱を受け、風下側の都市域が記録的な高温になったという新説を提唱し、米国気象学会の学術誌に掲載され(Takane and Kusaka 2011, JAMC)、たくさんの新聞に取り上げられました。さらには、これまで詳しく調査されてこなかった、関東平野内陸域における猛暑の発生環境の気候学的な特徴を、総観スケールからメソスケールまで網羅的に調査しました(Takane et al. 2014, IJC)。

この研究は、従来仮説に疑問を持ったら自分で丁寧に調べてみること、定性的な説明ではなく定量的な解析を行うことが非常に重要であるということを、改めて教えてくれました。

  日下研究室では、今後も様々な地域を対象に猛暑の実態調査を継続して行います。もちろん、WRFやLESを用いた数値シミュレーションを行うことによりそれらの地域の猛暑の形成要因の解明を目指します。

一般的に知られているタイプIとIIのフェーン。タイプIは熱力学フェーン(湿ったフェーン)、タイプIIは力学フェーン(乾いたフェーン)とも呼ばれる。

2007年8月16日の熊谷猛暑と、それを引き起こす山越え気流に伴う昇温の概念図。

(文責:高根雄也)

学術論文など
  • Takane, Y., H. Kusaka, H. Kondo, M. Okada, M. Takaki, S. Abe, S. Tanaka, K. Miyamoto, Y. Fuji and T. Nagai, 2016: Factors causing climatologically high temperatures in a hottest city in Japan: a multi-scale analysis of Tajimi., International Journal of Climatology., DOI: 10.1002/joc.4790, 2016/06/15(謝辞: CCS, 多治見市) .
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  • Takane, Y., H. Kusaka, H. Kondo, 2015: Investigation of a recent extreme high-temperature event in the Tokyo metropolitan area using numerical simulations: the potential role of a 'hybrid' foehn wind. Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society, 141(690), 1857-1869. 2015/07/01(謝辞: RECCA, S-8, CCS共同利用) .
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  • Takane, Y., H. Kusaka, H. Kondo, 2014: Climatological study on mesoscale extreme high temperature events in the inland of the Tokyo Metropolitan Area, Japan, during the past 22 years. International Journal of Climatology, DOI:10.1002/joc.3951.2014/02/01(謝辞:S-8, RECCA) .
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  • Takane, Y., Y. Ohashi, H. Kusaka, Y. Shigeta, Y. Kikegawa2013: Effects of synoptic-scale wind under the typical summer pressure pattern on the mesoscale high-temperature events in the Osaka and Kyoto urban areas by the WRF model.J. Appl. Meteor. Clim,52(8),1764-1778. 2013/08/01(謝辞:RECCA, S8, T2K ) .
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  • Takane, Y., Kusaka, H., 2011: Formation mechanism of the extreme surface air temperature of 40.9 C observed in the Tokyo metropolitan area: Considerations of dynamic foehn and foehn-like wind. J. Appl. Meteor. Clim., 50(9), 1827-1841. 2011/09/01(謝辞:S5, S8, T2K学際共同利用) .
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TV取材・新聞掲載など
    • NHK「ニュースウォッチ9」日下先生出演(2012年8月21日)
    • CBCテレビ「Nスタ」高根君出演(2012年8月19日)
    • CBCテレビ「イッポウ」日下先生出演(2011年6月30日、2010年8月16日)
    • 東海テレビ「ぴーかんテレビ」日下先生出演(2010年7月26日)
    • 日経新聞 研究成果掲載(2011年7月21日、2011年7月22日)
    • 毎日新聞 研究成果掲載(2012年7月8日、2011年7月22日)
    • 朝日新聞 研究成果掲載(2011年7月22日、2010年7月23日)
    • 中日新聞 研究成果掲載(2012年8月22日、2011年7月1日、2010年5月28日、2010年7月31日)


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健康影響評価

近年日本では、地球温暖化の影響に加えて、ヒートアイランド現象の効果により、都市部の気温が上昇傾向にあります。
特に夏場は、熱中症患者数が年々増加しており、気温上昇による健康被害の悪化が明らかになっております。

高温化が著しい都市部、特に三大都市圏では健康への影響も大きいと思われますが、都市気温の上昇に伴う将来の健康影響評価は、殆ど行われていないのが現状です。

日下研究室では、領域気候モデルWRFを用いたダウンスケール実験により、三大都市圏の夏季気候の将来予測計算を行い、その結果を用いて、将来の地球温暖化とヒートアイランド現象による気温上昇が、人々の健康にどのような影響を及ぼすか予測・評価しています。


8月の「原則運動禁止」レベル日数

左は観測から得られた現在値、右は力学的ダウンス ケールによって得られた将来予測値。

鈴木パーカー明日香ら (2013, 日本生気象学会雑誌) より
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学術論文など
  • Suzuki-Parker, A., H. Kusaka, 2016: Future projections of labor hours based on WBGT for Tokyo and Osaka, Japan, using multi-period ensemble dynamical downscale simulations. Int. J. Biometol.60(2), DOI:/10.1007/s00841-015-1001-2, 307–310, 2016/02/01 .
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  • Suzuki-Parker, A., H. Kusaka, 2015: Assessment of the impact of metropolitan-scale urban planning scenarios on the moist thermal environment in a warmed climate: A study of the Tokyo metropolitan area using regional climate modeling. Advances in Meteorology, 2015(Article ID 693754), 2015/05/06(謝辞:創生、CCS学祭共同利用) .
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  • 鈴木パーカー明日香, 日下 博幸, 2015: WBGTに基づいた日本の暑熱環境の気候学的調査と領域気候モデルによる将来予測日本生気象学会雑誌, 52(1), 59-72. 2015/01/06(謝辞: 創生) .
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  • Kayaba, M., T. Ihara, H. Kusaka, S. Iizuka, K. Miyamoto, and Y. Honda, 2014: Association between sleep and residential environments in the summertime in Japan. Sleep medicine, 15, 556-564. 2014/02/19(謝辞:S-8, RECCA) .
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  • 岡田牧, 岡田益己, 日下博幸, 2013: 岡田・日下の黒球温度推定式の広域適用とパラメータ調整, 日本ヒートアイランド学会論文集, 8, 13-21. 2013/11/14(謝辞:創生プログラム, RECCA) .
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  • 日下博幸, 飯島奈津美, 井原智彦, 原政之, 高根雄也, 飯塚悟, 2013: 2070年代8月を対象とした東京・名古屋・大阪における熱中症および睡眠困難の将来予測., 日本建築学会環境系論文集, 693, 873-881. 2013/11/01 .
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  • 髙根雄也, 日下博幸, 髙木美彩, 岡田牧, 阿部紫織, 永井徹, 冨士友紀乃, 飯塚悟,2013: 岐阜県多治見市における夏季晴天日の暑熱環境の実態調査と領域気象モデルWRFを用いた予測実験 ー物理モデルと水平解像度に伴う不確実性の検討ー,地理学評論, 86-1, 14-37. 2013/01/01(謝辞:RECCA) .
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  • Kusaka, H., Hara, M., Takane, Y., 2012: Urban climate projection by the WRF model at 3-km horizontal grid increment: Dynamical downscaling and predicting heat stress in the 2070’s August for Tokyo, Osaka, and Nagoya metropolies. J. Meteor. Soc. Japan., 90B, 47-63. 2012/03/27(謝辞:S5) .
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  • 井原智彦, 日下博幸, 原政之, 松橋隆治, 吉田好邦, 2011: 問題比較型影響評価手法を用いた都市気温上昇に伴う軽度の健康影響の推定. 日本建築学会環境系論文集, 76(662), 459-467. 2011/04/01 (謝辞:S5) .
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TV取材・新聞掲載など
  • 日経新聞 研究成果掲載(2012年5月10日)