と、まあ、色々理屈ばかり書きましたが、一番の教育効果は、若いうちに大自然の中に引っ張り出され、メールもテレビも見れない所で、自然の厳しさを身にしみるほど体感する事かもしれません。

 学生時代に困難に直面した多くの経験が、社会人としての逞しさや成長の根源となります。自分で気がついていない才能を引き出し、チャンスを提供する事が本来の教育者としての責務だと考えます。そのためには時間がかかります。それでも、皆さんの”発想力”を鍛えるべく、試行錯誤を繰り返していきたいと考えています。なるべく、皆さんのやりたい夢を尊重し、風通しの良い研究室運営を心がけているつもりです。何か問題を感じましたら気軽に相談しにきてください。

 正しく地球システムを理解した卒業生が、間接的でも良いから社会で個々に情報発信することが、草の根的地球環境改善に結びつくと信じています。探求する相手が”地球”といった”大物”なのですから、我々もそれに負けない自由で好奇心旺盛は発想を持ち続けたいものです。そして、世間知らず・内弁慶のつくば人にならないよう、学外・海外の学生さんと交流し、多種多様な考え方に接することで、将来のあるべき地球環境を考えましょう。
 
 卒業に求められる到達度には個人差があり、目標を設定することはなかなか難しいですね。以下は私が考える大まかな卒業の目安です。いずれも将来の社会人として役に立つ事を念頭にしています。

卒業研究: 定量的なデータの取得(観測)、集計・解析、提示が出来ること。これにより客観的な議論・判断が可能となる。作成した図表に誤りがあったり、それに気づかず議論・公表すると、作業自体の信頼性に欠け、仕事を依頼されなくなる事もあり。.

 卒業研究のテーマに関しては、以下のような順番で気長に決めています。必要であればこちらでテーマを設定しますので、困っても孤立せず一緒にできることを探しましょう。

 1,自分の興味(現象・スケール・手法)の提示
 2,教員からの提案・助言
 3,複数のテーマを立案し、まずは手を動かしてみる
 4,自分に向いた手法とテーマを相談しながら絞り込む
 5,あとは成果に応じてテーマを修正

 大学院は研究をする所です。勉強が苦手な人や、研究室に来ることが日課にできない人は学位の取得は困難だと思います。修士研究に関しては、卒論時代の資産と付加的な展望を考慮して設定します。全く異なるテーマの設定は卒論の焼き直しになるので、推奨していません。卒業までに少なくとも1回は学会発表を奨励しています。

修論研究: 自分で問題解決のための手法を構築したり、手法を取捨選択できる能力が身につくこと。これにより、既存の問題に直面したとき(または与えられたとき)、どのように対処したらよいか判断できますね。高度で無くても良いから、自分で納得する手法を取得すると、仕事に自信が持てます。.

 博士研究にあたっては、まず修士の内容を投稿にまとめる事から始めましょう。実際の投稿過程を経て、研究者としての実践を積むことが重要です。あとは研究が楽しめること。

博論研究: 自分で問題を発見・設定し、論理展開ができる事。それを書き残す能力を身につけること(論文化できること)。博士はあくあで研究者のパスポートですから、その後も自立してサイエンスを発していく哲学を身に付けて欲しいと思います。地道な探求心と問題解決のための集中力が要求されます。.
Welcome to Ueno HP 本文へジャンプ
教育活動に対する取り組み

 大学には、学生さんと一緒に物事を探求し、新しい考え方や技術の種が生まれるというメリットがあります。自分が学生だった頃は先生の研究の手伝いなどそこそこに、かなり好き勝手にやらせていただき、教官も自分の研究に没頭するのが本務で学生はそれを盗んで成長せよ、といった放任主義が”美”とされていたように思います。物事の進展は本人の自主性いかんであるという常識が通用した時代でした。他分野の先生の研究室に入り込んで議論を吹きかけたり、他の分野の院生といつまでもお茶話に花を咲かせたことも日常茶飯事でした。しかし、昨今は学生さんの勉強に取り組む姿勢そのものに大きな変化が生じている事を痛感します。それでもあえて”自主性を身につける研究室”にこだわりたいですね。そして、学生さんにはせっかく”地球”と名のつく学部・院に進学したのですから、”現場”で大きな自然を体感し、連動する現象の仕組みをまるごと理解する努力をしてほしいと思います。そのため、野外観測や海外の視察を重視するのも本研究室の特徴です。

 自ら探求し、社会のリーダーシップが取れる人を育てる事こそ、本来の大学が果たす役割だったはずです。しかし、近年、大学の”サービス業化”は著しく、社会を活性化する主人公の減少に不安を感じるのは私だけでは無いでしょう。そもそも、教科書やネットに書いてある知識や技術は自然に生まれきたのでは無いのですが、自らの発想を避け、教科書的情報をうまく入手しコンパイルする才能がもてはやされている傾向を感じます。世の中に合理主義が浸透し、戦略的に目的を達成する組織運営が良しとされる風潮では、論文の数、授業の理解度、就職率など、一見解りやすい指標の達成に向け教員・学生ともに多くの時間が費やされるようになりました。私は教育と研究が一体であることこそ真のUniversityだと考えるのですが、、また、滋賀県立大学で過ごした10年は、野外での実践教育法を私自身で取得できた貴重な期間でした(詳しくは滋賀県とのかかわり)。効率主義だけでは物事が解決しない合意形成の重要性と、教養としての環境科学を学部から教えるカリキュラムを学べた貴重な期間でもありました。大学も新しく、関西圏という異文化にふれつつ、一から大学の研究室を立ち上げ学生さんと琵琶湖の周りを駆け回った30代は忘れられません。人とのコミュニケーションン能力に長けた(?)関西人文化も気に入りました。

 地球学類に改組され、授業体系にも地球科学特有の工夫がなされるようになりました。本学の大気科学分野は複数の学科・学類に分属していますが、体系の整ったうまい運営が実践されている思います。専門・思考の異なる複数の教員から構成され、個別の研究室体制と平衡した横断型の合同ゼミを学部・院共に運営しています。授業も、現象の理論的理解と応用に向け、観測・解析・数値モデルといった授業が組まれ、内容や学生指導の問題点も、頻繁に分野会議を開いて協議しています(学生さんの知らないところで教員の方々はよりよい体制を懸命に模索しているのです)。

 授業実施にあたって、私自身は以下の点を工夫してきました。
1,実践的であること:実験授業において、少人数で直に気象観測ができる仕組みを展開しています。英語授業では、学術雑誌を教材に取り入れ、英会話プレゼンテーションを実施しています。なるべく発表する機会を設けます。
2,実体験を教材とする:今までに経験してきた海外での観測成果や物理地理的なものの見方を積極的に紹介しています。野外・海外に足を伸ばして現場の現象を体験する機会を作っています。そのために先輩の野外観測作業を補助する機会を数多く設定し、チベットやヒマラヤといったフィールドにも多くの学生さんが同行してきました。毎年、冬期菅平での大気・雪氷実習を実施し好評(?)を得ています。
3,教材提供の工夫:授業で使用する図表やデータは本HPを通じて情報提供します。特に実験や演習授業では、リアルタイムでデータを共有し分析する作業をMoodleにて実線しています。一方で、作為的に資料を公開しない場合もあります。これには、多くの情報の中で限られた時間内にもっとも自分が必要とされる情報を取得する能力を養いたいという意図があります。

 試験合格のために教科書や解説書をまじめに勉強してきた学生諸君は、卒論や修論でも自明の成果が生まれるのはあたりまえであると確信して開始しようとします。多くの書籍は人間が自然を解りやすく理解するために教える立場の都合で並べられた題材であことが多く、実際の地球科学では複雑連動する自然現象で理解・予測のできない事項は山のようにあります。これらを自分なりに探求する事が研究なのですが、初心者は、その部分はすっ飛ばして、題材・手法、あわよくば期待される成果が整った物に目が行きます。”合格点をもらってほめられるより、物事を自分で理解した時の達成感ほど楽しく、本当の実力に繋がるのだ”という事を伝えるのは非常に大変です。そして、その過程で頭を使う事自体が勉強であり、集められた資料そのものは付加価値でしかありません。私は、その出発点として”まずは自分のやりたいことを考え、作業してみよう”よう指示します。ゆとり教育世代は本来このような自主性が得意であると思っていたのですが、どうも正反対のようで、自分で考える事ほどめんどくさいことは無いといった顔をします。もちろん、その後、教員との共同作業であれこれ研究を模索する事になるわけですが、その前に少しは放置状態を体験して具体的に本研究室で何を探求したいか自分と向き合ってもらいたいものです。

 本研究室では週一回のゼミを行なっています。ゼミは、自分のやてもらうことを他人に分かってもらうアピールの場であり、同時に発表者や参加者にコメントや質問をして双方向で研究内容を高め合う場です。なにかの、宿題を報告する場ではありません。ゼミに積極的に議論できる人は、就職活動の面接でも必ず成功しています。本研究室は十数人と対面式に議論がしやすくい規模ですから、コーヒー片手に、いろいろな考えを持ち寄りましょう。一方、分野や学類・専攻では別途全体のゼミが開催されています。こちらでは、他研究室の先生や友達から沢山の質問やコメントがもらえるよう、万全の準備をして臨みましょう。そのためには、聞く立場にたって準備する事が重要です。